味の素グループに学ぶ!経理AIエージェントで工数76%削減の秘訣と導入の第一歩

「人にしかできない」をAIが担う。経理AIエージェントの衝撃
現在、経理人材の人手不足は深刻化の一途をたどっています。日商簿記の受験者・合格者はこの15年で大きく減少し、実務レベルとされる2級の実受験者は2010年度から2025年度にかけて約22%、1級は約38%も減少しました。上場企業や税理士法人でも、経理の実務を担う専門人材が採用できない、育たないという声が後を絶ちません。デロイト トーマツの調査では、経理・財務・税務部門の35.7%が「人材育成・人材確保」に課題を感じていると報告されており、企業の現場で人材不足が深刻な問題となっていることがうかがえます。
さらに、非財務情報の開示やサステナビリティへの対応など、経理部門に求められる役割は広がり続けています。このような状況下で、解決策として注目されているのがAIの活用です。しかし、経理は数字を1円たりとも間違えられない領域であり、入力や確認作業は専門性を持った人の手で慎重に行うべきとされてきました。
そうした「人にしかできない」とされてきた経理判断に、いち早く踏み込んだ企業があります。それが、味の素グループの財務・経理業務を担う味の素フィナンシャル・ソリューションズ(AFS)です。AFSは経理に特化したAIを手掛けるファーストアカウンティングと共同で「経理AIエージェント」を開発し、なんと工数「76%」削減という驚くべき成果を上げています。このAIエージェントは「経費精算の経理承認業務」をAIに委ねるという画期的な取り組みであり、人手不足と正確性という二律背反の課題に挑戦した事例として注目されます。
経理AIエージェントが「できること」とは?
AFSとファーストアカウンティングが共同開発した経理AIエージェントは、従来のRPA(Robotic Process Automation)や一般的なLLM(大規模言語モデル)では難しかった、複雑な判断を伴う経費精算の承認業務を担います。
- 社内規定の学習と適用: 経費精算の承認は、単なる金額の照合だけでは完結しません。会計ルールはもちろんのこと、出張旅費規定をはじめとする各社の社内規定と照らし合わせ、申請が正しいかを判断する必要があります。このAIエージェントは、これらの社内規定を学習し、判断に活用できます。
- 勘定科目の複数正解への対応: 例えば、ペットボトルの水1本を経費で購入した場合でも、利用目的や会社ごとの判断によって「会議費」「消耗品費」「雑費」など、複数の勘定科目が正解となり得ます。このような状況に対応するため、汎用的な会計ルールだけでなく、各社の社内規定まで学習させることが重要となります。経理AIエージェントは、この難易度の高い判断も可能にしています。
- 自律的な業務遂行: このAIエージェントは、システムへのログインから申請内容の確認、そして承認・差し戻しの判断までを自律的に実施します。これにより、従来人の手で行っていた一連の承認業務をAIが完結させることができます。
AFS社内では、2月からこのAIエージェントの活用を開始しており、徐々に適用範囲を広げているとのことです。
あなたの現場で「どう使えるのか」
味の素グループの事例は、Web制作やAI開発に携わる私たちにとっても、多くの示唆を与えてくれます。特に、経理部門だけでなく、同様に「正確性」と「効率性」の両立が求められる様々なバックオフィス業務や、顧客対応業務などに応用できる可能性を秘めています。
まず、このAIエージェントが単なる定型作業の自動化に留まらず、社内規定の学習や複数の正解がある複雑な判断をAIに任せられる点は、非常に重要です。これは、RPAではカバーしきれなかった領域であり、AIがより高度な意思決定プロセスに介入できることを示しています。例えば、自社のサービス利用規約やガイドライン、顧客サポートのFAQなどを学習させ、ユーザーからの問い合わせに対する一次回答や、簡易な承認業務をAIに委ねるといった応用が考えられます。
また、工数「76%」削減という具体的な成果は、人材不足に悩むあらゆる業界・企業にとって大きな魅力です。自社の開発プロセスや運用業務において、属人化している判断業務や、確認作業に多くの時間を要している部分があれば、この経理AIエージェントのような仕組みを応用することで、大幅な効率化とコスト削減が期待できるでしょう。
「人手不足のため効率化を進めたい、しかし間違いが許されない領域で従来の方法を変えるのは不安」という葛藤は、経理部門に限らず多くの企業が抱える共通の課題です。味の素グループの事例は、そうした課題に対し、AIが具体的な解決策となり得ることを示しています。
導入を「試すならどこから始めるか」
味の素グループが経理AIエージェントの導入で先行できた鍵は、「30年以上続く業務標準化」にあるとされています。
これは、AIを導入する上で最も重要な第一歩が、自社の業務プロセスを明確にし、標準化することであることを示唆しています。AIは学習によって賢くなりますが、その学習元となるルールやデータが曖昧であれば、期待通りの成果は得られません。特に、経理のような「1円の誤りも許されない」領域では、AIが判断を下すための明確な基準や社内規定が整備されていることが不可欠です。
もしあなたの組織でAI活用を検討するなら、まずは以下の点から始めてみてはいかがでしょうか。
- 業務プロセスの可視化と標準化: AIに任せたい業務のフローを詳細に洗い出し、判断基準やルールを明確に定義します。属人化している業務があれば、これを機会に標準化を進めます。
- スモールスタートでの検証: まずは味の素グループのように、特定の業務(例: 経費精算の一部承認)に絞ってAIエージェントを導入し、その有効性を検証します。小さな成功体験を積み重ねることで、現場の抵抗感を和らげ、適用範囲を広げていくことができます。
- 専門ベンダーとの連携: 自社だけでゼロから開発することが難しい場合は、ファーストアカウンティングのような専門性を持つ企業との共同開発も有効な選択肢です。彼らのノウハウを活用することで、より迅速かつ確実にAIソリューションを導入できるでしょう。
「経理DXを進めたいが、現場の抵抗が強い」「ツールを導入しても活用が広がらない」といった悩みを抱える企業は少なくありません。味の素グループの事例は、AIが単なるツールではなく、業務変革の強力なドライバーとなり得ることを示しています。そしてその成功の裏には、地道な業務標準化という基盤があったことを忘れてはなりません。


