「脱Excel」はなぜ進まない?システムと現場のギャップを埋めるAI活用のヒント

システム導入だけでは終わらない「脱Excel」の現実
「システムを導入すれば、Excelを使った手作業はなくなるはず」——Web制作やAI開発に携わる私たちエンジニアも、そう考えがちですよね。しかし、現実はそう単純ではないようです。特に給与計算のような業務では、システム外の作業が残り続けるケースが非常に多いことが、最近の調査で明らかになりました。
AIを活用した業務システムを手掛けるLayerXが2026年8月に発表した「給与計算の月次締め」に関する実態調査によると、給与計算システムを導入している企業でも、約9割がExcelなどの表計算ソフトウェアを併用していると回答しています。
現場でExcelが手放せない3つの理由
なぜこれほどまでにExcelが手放せないのでしょうか?調査結果からは、主に以下の3つの用途でExcelが活用されていることが分かります。
- 検算Excel (45.0%):給与計算システムの計算結果を検証するため。システムが出した数値を鵜呑みにせず、自前で確認する文化が根強いことが伺えます。
- 備忘録Excel (43.6%):異動や昇給といった将来の変動情報を、適用月まで管理するため。システムによっては、将来の変更を柔軟に管理する機能が不足している場合があります。
- 住民税・変更履歴Excel (32.0%):自治体別の住民税や過去の履歴を管理するため。これもまた、システムの機能だけでは対応しきれない、きめ細やかな管理が必要とされている証拠でしょう。
これらのExcelは、単なる手作業の残滓ではなく、むしろシステムの機能不足を補い、業務の正確性を担保するための重要な役割を担っていると言えます。
システムとExcelの連携がもたらす課題
従業員の昇給や住所変更、扶養変更などが決まった際の給与計算システムへの反映方法を見ると、変更データを表計算ソフトウェアに別途蓄積し、適用月になったタイミングで手動転記したり、CSVファイルで一括して取り込んだりするとの回答が36.4%で最多でした。また、給与計算結果の確定前チェックでは、システム内の確認のみで完結するとの回答は10.6%にとどまり、約9割が人力によるチェックを実施しています。そのチェック方法の多くは、給与データと人事データをそれぞれCSVファイルで出力し、検算Excelで一致するかどうかを検証するというものでした。
LayerXは、こうした手作業が必要になる理由として、人事マスターや給与マスターなどのデータが分離していたり、変更反映月の指定や過去履歴の保持ができなかったりするシステムがあることを挙げています。
AI・LLMで「検算Excel」を卒業するヒント
この状況をWeb制作・AI開発の視点から考えると、私たちができることは何でしょうか?
1. データ連携の自動化と品質向上
「ExcelとCSVでデータ連携」がまだなくせないのはなぜ?という関連記事も示唆するように、データ連携の自動化は依然として大きな課題です。AIを活用したデータ変換・統合ツールや、RPA(Robotic Process Automation)を導入することで、CSVファイルによる手作業や手動転記の負荷を軽減できる可能性があります。
特に、異なるシステム間でデータ形式が異なる場合、LLM(大規模言語モデル)を活用して、自然言語による指示でデータマッピングや変換ルールを生成するようなアプローチも考えられます。これにより、システム間のデータ連携における「翻訳」作業を効率化し、検算の必要性を減らす第一歩とすることができます。
2. システムの柔軟性と履歴管理の強化
人事マスターや給与マスターのデータ分離、変更反映月の指定や過去履歴の保持ができないというシステム側の課題は、Webシステム開発の設計段階で考慮すべき点です。最新のWebフレームワークやデータベース技術を活用すれば、これらの要件を満たす柔軟なシステムを構築することは十分に可能です。
例えば、過去の変更履歴を自動で追跡し、特定の時点でのデータ状態を再現できるようなバージョン管理機能を組み込むことで、「備忘録Excel」の多くをシステム内に取り込むことができるでしょう。AIによる異常検知機能を組み込み、システムの計算結果に疑わしい点があれば自動でアラートを出すようにすれば、人力による「検算Excel」の負荷を大幅に削減できるかもしれません。
3. 生成AIによるチェック・監査プロセスの支援
システムが出力した給与計算結果と人事データとの突き合わせは、依然として多くの手作業を伴います。ここで生成AIの力を借りることができないでしょうか。
例えば、システムから出力された給与明細データと、人事マスターの変更履歴データ(昇給、住所変更など)をLLMに入力し、「この給与明細は、過去の変更履歴と整合性が取れているか?」といった質問を投げかけることで、AIが自動で整合性をチェックし、不一致の可能性が高い箇所を指摘してくれるような仕組みが考えられます。これにより、人間はAIが指摘した箇所に集中して確認作業を行うことができ、検算の効率と精度を向上させることができます。
もちろん、AIの出力はあくまで「補助」であり、最終的な判断は人間が行うべきですが、このようなツールがあれば、現状の「検算Excel」に代わる強力な武器となるはずです。
まとめ:AIとエンジニアリングで「脱Excel」を推進する
「脱Excel」は単にExcelを使わないことではなく、業務の正確性を保ちつつ、非効率な手作業を排除することが本質です。システム導入だけでは解決できない現場の課題に対し、AIや最新のWebエンジニアリング技術を組み合わせることで、私たちはよりスマートで信頼性の高い業務プロセスを構築できるはずです。
まずは、自社の業務プロセスにおいて、どの「Excel」がどのような目的で使われているのかを洗い出すことから始めてみませんか?そして、そのExcelの役割をAIやシステムで代替できないか、具体的なソリューションを検討していくことが、「脱Excel」への第一歩となるでしょう。


